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労働基準監督署がこれまで一律で行ってきた「残業は月45時間以内に」という指導方針が見直される、という話が出ています。法律そのものが変わるわけではありません。それでも、この見直しが現場にどう効いてくるのかを想像すると、あまり気持ちのいい絵は浮かびません。この記事では、何が変わると言われているのかを整理したうえで、工場の現場を見てきた立場から見えることと、働く側が自分の身をどう守るかを書きます。
この記事でわかること
- 「残業45時間以内の一律指導の見直し」で何が変わり、何が変わらないのか
- 「もっと働きたい」という声が、実際にはどれくらいの割合なのか
- 健康確保措置という確認方法が、現場では形骸化しやすい理由
- 制度に守ってもらえない前提で、働く側が取れる選択肢
「45時間以内」の指導が見直される、という話の中身
変わるのは法律ではなく運用
まず整理しておきたいのは、今回話題になっているのが36協定(時間外労働に関する労使協定)のルールそのものではない、という点です。特別条項付きの協定を結んでいれば、法律上は月100時間未満、年720時間以内といった上限の範囲で残業させることが可能です。この枠組み自体はそのまま残ります。
変わると言われているのは、労働基準監督署が企業を指導するときのやり方です。これまでは法律上もっと働かせられる企業に対しても、実務上は「月45時間以内に収めるように」と一律に指導してきた。それを、企業が健康確保措置をきちんと講じているかどうかを重点的に確認する運用に切り替える、という話です。企業向けの相談窓口も新設される予定だと報じられています。
ここで挙げている見直しの内容は、動画で紹介されていた発表内容にもとづく整理です。実際に自分の勤務先に関わる話として判断する場合は、厚生労働省や労働局が公表している一次情報を必ず確認してください。制度の運用は、報道の要約と実務での適用がずれることがあります。
「上限は変わらないから影響ない」とは言えない理由
法律の上限が変わらないなら実害はないだろう、という見方もできます。ただ、現場で効いていたのは法律の上限ではなく、監督署の「45時間以内で」という一言だったのではないかと思います。上限は100時間でも、指導のラインが45時間にあるから、会社は45時間を意識せざるを得なかった。その重しが外れると、実際の運用は法律の上限のほうに寄っていきます。
労働時間の管理というのは、明文化されたルールよりも「どこまでなら怒られないか」で決まっている部分が大きい。そこの目安が動くというのは、現場にとってはそれなりに大きな話です。
「もっと働きたい」という声は誰のものだったのか
希望している人は1割程度
今回の見直しの説明として、「企業はもっと働かせたい」「従業員ももっと残業して稼ぎたい」という双方の声に応えた、という趣旨が語られていたようです。ただ、その根拠として挙げられている調査の中身を見ると、話が少し違って見えます。
出典:動画内で言及されていた政府調査(一次資料は未確認)
残業を「もっと増やしたい」と希望する労働者は約1割。「このままでいい」が約6割、「減らしたい」が約3割。そして増やしたいと答えた人の理由の多くは「もっと稼ぎたいから」だった。
増やしたい人が1割で、減らしたい人が3割。この数字を見て「労働者も残業を望んでいる」とまとめるのは、かなり無理があります。しかも増やしたい理由が収入なら、それは残業が好きなのではなく、基本給だけでは足りないから時間を売っているという話です。
本来手を付けるべきは時間ではなく賃金
残業代がないと生活が回らない、という状態を放置したまま残業の枠を緩めても、働く側の生活が良くなるわけではありません。時間あたりの単価が上がらない限り、同じ収入を得るために必要な時間は減らない。むしろ「残業でしか稼げない構造」が固定されます。
製造業の現場でも、残業代を前提に生活設計している人は珍しくありませんでした。繁忙期に稼いで、閑散期に減った分をどう埋めるかを考える。それは本人が長時間労働を望んでいるからではなく、そうしないと年収が成立しないからです。ここに手を付けずに労働時間の話だけをするのは、順番が逆だと感じます。
「健康確保措置を確認する」は現場で機能するのか
書類は、いくらでも整う
今後は健康確保措置を重点的に確認する運用になる、とされています。ただ、工場の現場を見てきた立場からすると、この種の「措置を講じているか」という確認は、書類の上では簡単に整ってしまうという印象があります。
産業医はいます、面談の案内は出しています、勤怠は打刻で管理しています。こう並べれば、形式上は健康確保措置が講じられていることになる。実態として面談が5分で終わっていようが、面談の案内を受け取った本人が「行くと余計に面倒になる」と考えて辞退していようが、書類の上には出てきません。
時間という指標には、少なくとも数字として動かしにくいという強みがありました。それを「措置の有無」という定性的な確認に置き換えると、判断の余地が企業側に寄ります。厳しさが緩むというより、抜け道が広がるという方向の変化に見えます。
そもそも記録されていない残業がある
もう一つ気になるのが、この見直しが「記録された残業時間」を前提にしている点です。上限を超えそうになったら申請させない、上司の許可がなかったことにする、といった運用は、残念ながら珍しい話ではありません。記録に残らない時間は、指導の対象にもなりません。
本当に手を入れるべきなのは、時間外労働の申請をさせない運用の摘発や、違反への罰則の重さのほうだと思います。実際に長時間労働が常態化した職場がどうなるかについては、月200時間残業が当たり前の職場から逃げた話のような記録を読むと、時間の数字がどの時点で意味を失うのかがよくわかります。
制度が緩む前提で、自分の記録は自分で持つ
指導の目安が動くなら、働く側は「会社の記録が正しいとは限らない」という前提で動いたほうが安全です。実際の退社時刻、休日の持ち帰り作業、深夜の対応。会社の勤怠システムとは別に、自分の手元にも時系列で残しておく。これは会社と揉めたときにも、体調を崩して離脱するときにも効いてきます。
そして、記録を取ったうえで「これは無理だ」と判断したとき、次に立ちはだかるのが辞めると言い出せない問題です。長時間労働が常態化している職場ほど、人が足りないという理由で退職を切り出しにくい空気ができあがっています。自分から言い出すのが難しいところまで来ているなら、退職代行という手段があります。費用はかかりますし、会社との関係は基本的に切れます。円満退職という形にはなりにくい方法です。それでも、口に出せないまま消耗し続けるよりはましだ、という段階の人向けの選択肢だと考えています。
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「うちは大丈夫」の根拠を確認する
今回の見直しで、すべての会社の残業が一気に増えるわけではありません。ただ、これまで45時間のラインを守るために業務量を調整していた会社と、監督署に言われたから仕方なく守っていた会社では、この先の動きが分かれます。
自分の職場がどちらなのかは、繁忙期の対応を見ればだいたいわかります。人を増やすのか、工程を見直すのか、それとも各自の残業でしのぐのか。しのぐ以外の選択肢を持たない職場は、上限が緩んだ分だけそのまま伸びます。
体のサインを判断材料にする
労働時間の話は数字で語られがちですが、限界のサインは数字より先に体に出ます。休日が寝るだけで終わる、朝の支度に時間がかかるようになった、判断が鈍っている自覚がある。こうした状態が続いているなら、それは月何時間という数字より確かな情報です。この感覚については休日は寝て終わり…それは心が限界のサインでも触れられています。
制度の運用が緩む方向に動くのであれば、線を引く役目の一部は自分に返ってきます。会社が引いてくれる線を待たない、というのが現実的な構えになります。
動ける状態のうちに選択肢を作る
体調を崩してから転職活動を始めるのは、想像以上にきついものです。書類を書く体力も、面接で自分を説明する気力も、消耗しきった状態では出てきません。だからこそ、まだ動けるうちに情報を集めておくほうがいい。
- 記録を残す: 実際の出退勤時刻と業務量を、会社の勤怠とは別に自分で控えておく
- 基準を決める: どの状態になったら動くのかを、体調と時間の両面で先に決めておく
- 手段を確認する: 自分で退職を切り出す場合と、そうでない場合の進め方を調べておく
まとめ:ルールが守ってくれる範囲は狭くなる
今回の話は、法律の上限が変わったわけではありません。それでも、これまで実務上の歯止めになっていた「45時間」という目安の位置が動くのなら、影響を受ける現場は確実に出てきます。健康確保措置を確認する運用が実際にどこまで機能するかは、これから見ていくしかありません。
働く側として考えておきたいのは、ルールが自分を守ってくれる範囲は思っているより狭い、という前提です。記録を自分で持つこと、限界の基準を先に決めておくこと、そして状況が変わらないと判断したときに動ける準備をしておくこと。この三つは、制度がどう変わっても手元に残ります。
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