従業員の退職で倒産が過去最多ペースの理由

従業員の退職で倒産が過去最多ペースの理由 ブラック企業の実態

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人手不足による倒産のうち、従業員や経営幹部の退職が直接・間接の要因になったケースが増え続けている、という集計が話題になっています。1〜7月で83件、前年同期比で約12%増、2022年以降5年連続の増加。このペースなら年間100件を超えるとも言われています。この記事では、その数字が何を意味するのか、そして「代わりはいくらでもいる」という言葉がなぜ通用しなくなったのかを整理します。

この記事でわかること

  • 従業員の退職が引き金になる倒産が増えている、という集計の中身
  • サービス業・建設業で人が抜けると事業が止まる構造的な理由
  • 「代わりはいくらでもいる」が逆転した労働市場で、働く側が考えるべきこと

人が辞めたことが直接の原因で会社が潰れている

倒産の理由といえば、売上不振や資金繰りの悪化を思い浮かべる人が多いと思います。ところが近年増えているのは、受注はあるのに人がいなくて回らない、というタイプの行き詰まりです。従業員や経営幹部が辞めたことが直接的・間接的な要因になった倒産が、集計上はっきりと増え続けています。

数字の輪郭を押さえておく

出典:信用調査会社による人手不足倒産の集計として報じられた内容(年次・件数は公表元の資料でご確認ください)

1〜7月の期間で、従業員退職が要因となった倒産は83件。前年同期比で9件、約12.2%の増加。2022年以降5年連続で増えており、このペースが続けば初めて年100件を超えた前年をさらに上回るとされています。業種別ではサービス業が最多で全体の26.5%を占め、老人福祉施設や美容室での発生が目立ちました。建設業も1〜7月としては初めて20件台に到達しています。

気になるのは増え方です。前年比で1割強という数字だけ見ると穏やかに思えますが、5年連続で積み上がっているという点が重い。ある年だけ景気が悪かった、という話ではなく、人が抜けることで事業が止まる会社が構造的に増え続けているということになります。

「潰れた方がいい」という意見をどう受け止めるか

この手の話題では必ず、待遇を上げられない会社は潰れるのが妥当だ、という意見が出ます。実際、賃上げができないのは利益を出せていないからで、そこで雇われ続ける人が一番割を食う、という見方には筋が通っています。

ただし倒産は、そこで働いていた人の生活がいきなり途切れるということでもあります。会社が消えるスピードに、本人の準備が追いつくとは限らない。だから「潰れるべきだ」と論じるより、自分の勤め先がそのリストに載りそうかどうかを先に見ておく方が実用的だと思っています。

サービス業と建設業で人が抜けると止まる理由

最多がサービス業、という結果は、正直そこまで意外ではありません。老人福祉施設も美容室も、人がいなければサービスそのものが提供できない業種です。設備を止めておく、在庫でしのぐ、という逃げ道がない。人員が定員を割った瞬間に、売上を作る手段が消えます。

属人化した業務は数字に出ない

建設業が初めて20件台に乗った、という部分も同じ構造で説明がつきます。職人や営業担当が抜けて回らなくなる、というのは、裏を返せばその人にしかできない仕事が積み上がっていたということです。

工場で生産技術をやっていた立場から見ると、この倒産の増え方はかなり納得できてしまいます。設備の癖も、業者とのやり取りも、書類上は誰でもできることになっている。でも実際は、その人がいるから止まらずに動いているだけ、という工程は珍しくありません。人員表には現れないので、抜けて初めて空いた穴の大きさが分かる。

そしてこの穴は、外注で埋めようとすると採算が悪化します。内製でやっていた作業を外に出せば、受注しても利益が残らない。かといって長年付き合ってきた元請けに値上げを言い出せない。そこで詰まって現金が尽きる、という流れは、業種を問わず起こり得ます。

一人に集中させた会社ほど脆い

優秀な人ほど仕事が集まる、という現象自体はどの職場にもあります。問題は、それを是正しないまま何年も走ってしまう会社です。集中させた分だけ、その一人が辞めたときの落差が大きくなる。倒産まで行かなくても、残った人が連鎖的に潰れていく話は以前に書きました(仕事ができる人に業務が集中する会社の末路)。

「代わりはいくらでもいる」が逆転した労働市場

今回の集計が示しているのは、突き詰めれば労働市場の流動性が上がった、ということです。待遇の良い求人が出ていて、SNSで他社の労働環境が簡単に見えてしまう。年間休日が何日で、残業がどのくらいで、という情報が、入社前から比較できる状態になっています。

比較されているのは会社の方

かつて「代わりはいくらでもいる」は雇う側の台詞でした。今はその言葉が、そのまま働く側から会社に向けられる状況になっています。選ばれなくなった会社から順に、人が抜けて事業が止まる。倒産件数の増加は、その結果が数字として表面化したものだと見た方が理解しやすいと思います。

一方で、日本では解雇の規制が強く、成果を出していない人を簡単に切れないという指摘もあります。これは平均賃金を上げにくくする要因として語られますが、同時に雇用の安定を支えている面もあり、どちらが正しいと単純には言えません。ここは立場によって評価が分かれるところなので、断定は避けておきます。

辞めると伝えること自体が難関になる職場もある

ただ、現実には「辞めます」と言った瞬間に態度が変わる会社があります。恩を仇で返すのか、他所へ行っても通用しない、といった言葉が飛んでくる職場は珍しくありません。人が抜けて回らなくなっている会社ほど、引き止めは強くなります。

就業規則どおりの時期に申し出ても揉めることはありますし、そこで消耗して結局言い出せないまま数年経つ、という話もよく聞きます。自分から切り出すのがどうしても難しい状況なら、退職代行という手段があります。費用はかかりますし、円満退職にはなりにくく、会社との関係は基本的に切れます。それでも、交渉の場に立たされること自体が限界だという人には、選択肢として知っておく価値はあると思います。

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勤め先が「そちら側」かどうかを見ておく

倒産のニュースを他人事として読むか、自分の会社の未来として読むかで、その後の動き方が変わります。判断材料はそう多くありません。

  1. 若手の退職が続いているか: 一人辞めた後、半年以内に二人目、三人目が続いているなら、原因は個人ではなく環境側にあります。
  2. 抜けた穴を外注で埋めていないか: 内製していた作業を外に出し始めたら、受注が利益に変わりにくくなっているサインです。
  3. 賃上げの話が「うちは無理」で終わるか: 資材高や取引先を理由に説明が止まる場合、価格転嫁ができていない可能性があります。

まず情報を持つところから

会社の外を見ていないと、今の労働条件が普通なのか異常なのかが分かりません。年間休日が105日以下でも当たり前だと思い込んでいた、というのは、比較対象を持っていないときに誰にでも起こることです。求人を眺めるだけでも、自分の職種の相場は見えてきます。

人が抜けていく会社の兆候については、以前まとめた記事も参考になるかもしれません(従業員が逃げる会社の特徴と辞め時の見極め方)。

ここで挙げた件数や比率は、報道で紹介された集計にもとづくものです。調査の対象範囲や集計方法によって数字は変わりますので、判断材料として使う場合は公表元の資料も確認してください。

会社が倒れる前に、自分の選択肢を数えておく

従業員の退職が原因の倒産が5年連続で増えている、という事実から読み取れるのは、待遇を上げられない会社に人が残らなくなった、という一点です。逆に言えば、条件の良い会社は人を集められている。同じ職種でも、休日数や年収に大きな差がついている状態です。

次に考えるべき二つのこと

ひとつは、自分の会社が人手で止まりかけていないかという点。もうひとつは、止まりかけているとして、自分がそこに残る理由があるかという点です。残ると決めるなら、業務が自分ひとりに集中していないかを確認しておく必要があります。集中している人ほど、辞めるときに強く引き止められるからです。

そして、辞めると決めても口に出せない状態が続くなら、それは意思の弱さではなく、環境が交渉を許していないだけかもしれません。言い出せないまま体調を崩す前に、間に入ってもらう方法があることは覚えておいて損はありません。費用や、その後の関係が切れることを承知したうえで使う手段です。

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会社が潰れてから慌てるのと、潰れる前に自分で動くのとでは、選べる範囲がまったく違います。今すぐ辞めるべきだとは思いません。ただ、辞めるという選択肢を手元に持っているかどうかは、確認しておいていい時期だと思います。